私は、小平市鷹の台近辺の玉川上水で10年以上生き物観察会を実施してきました。生活圏にありながらも、ここには驚きの生態系が残されていること、同時にそれが急速に失われつつあることに気がつきました。世界的にも生物多様性の消失に歯止めの効かない今、まさにこの奇跡的に残された生態系は手を加えず生き物の視点で守るべきところです。
東京のほぼ中央に位置する玉川上水は、都心へと向かう水と緑の大動脈であり、そこから流れ出る用水路網は毛細血管のように流れ、生き物が住みずらい所に命をふきこんでいます。縄文遺跡においては、玉川上水の羽村から井の頭池までの間に空白の地帯があり、水がなかったことを証明しています。水のなかったところへと水が流れ、人のみならず多種多様な生き物もこれを利用して生きてきましたが、今に続くこの水路網の生態系へ及ぼす影響は、あまり話題にされてきませんでした。その生物多様性を深く調べることは、東京都においても必須です。
歴史的にも価値のある美しい景観は未来に残すべきですが、残念なが失われつづけ、今ではほんのわずかになってしまいました。玉川上水独特の土の法面は歴史を物語るに欠かせませんが、小平の5kmに集中して連続しています。他では見られない景観で、この連続性を壊すことは東京都にとっても大きな損失に違いありません。
これらを背景に、東京都知事に対して、玉川上水景観基本軸と東京都生物多様性地域戦略に則った調査を要望したいと署名活動を始めました。2024年、去年の4月28日のことです。
この署名を始める前、協力してくれる人がどのくらいいるのかとても不安でしたが、たくさんの人たちが協力・賛同してくださり、12月19日3万筆を超える署名を都庁に提出することができました。
都庁で担当してくださったのは、建設局の3名。私たちは「道路建設を進める前に調査してほしい」と言ってはいますが、道路建設自体の賛否は述べていません。一生懸命に玉川上水の価値と、この署名の重さを伝え、「必ず都知事に手渡して下さい」と念を押しました。彼らは「署名はもちろん手渡します」とは言わず、景観や生き物の調査への反応もほぼ無く、ただ「この道路計画は、計画通り進めてまいります」と言われました。
私は「ま、そう言うしかないだろうな」という気持ちでしたが、ある意味楽観的にもなれる答えでした。つまり、小池都知事が考えを変えたとしたら、彼らはそれに従うしかないわけです。
その次の日の東京新聞「小池知事・会見ファイル」によると、「現地視察は必要に応じて」というタイトルがありました。「公的に行くということで日程が決まっているわけではございません」 という期待して良いのかどうか悩むような発言ですが、全く無視されているわけでもなく、十分期待できる答えだと私は希望を持ちました。
このような署名活動が実現した背景には、署名仲間たち、協力者たち、私の知り得ないところで応援してくださったいる方々の力があります。この場を借りて大きな感謝を伝えたく思います。
ちむくい代表 リー智子